出版社にとっての電子書籍

電子書籍の時代に最も深刻に受け止め、敏感になっているのは出版社です。現在ある出版社のほとんどは、紙の本を出版することによって利益を確保してきました。しかし、紙の本が電子書籍に取って代わられて、出版社がそれを傍観することしかできないとしたら深刻な事態です。

なによりも、現在、出版業界そのものが斜陽産業化しています。出版産業の書籍販売金額は、総計で、1990年には8,474億円あり、最近では2011年で、8,801億円となっています。微増しているのですが、書籍の新刊点数は、40,576点から78,902点まで倍増しています。すなわち、販売額の落ち込みを、出版点数の増加でカバーしているのです。販売種類の増加で対応できない、雑誌販売額は同じ期間で30%近く減少しています(湯浅俊彦著、『電子出版学入門』、p.9。元データは『出版年感 2012年版』)。

書店の数も毎年減り続けています。

この期間は、インターネットやパーソナルコンピュータ(パソコン)が普及した期間で、情報を得ることや、文字を読むことの楽しみが本からこうした電子媒体に移っていったことが大きな一つの理由であることは間違いありません。

電子書籍は、電子情報をパッケージ化した本であり、出版社にとってこの電子書籍をどのように扱うかを死活問題として考えたとしても、自然なことです。

日本の出版社は、早い時期からこの電子出版に注目し、さまざまな対応をしてきました。湯浅俊彦氏の『電子出版額入門』(2013年刊)の年表は、「1985年、三修社、CD-ROM出版第1号『最新科学技術用語辞典』を発売」から始まり、その翌年には、「日本電子出版協会」が設立されています。今から40年近く前のことです。

出版協会を中心に、その後、さまざまの動きが発生しました。辞書の電子化は、実用的で早くの実現している。個人レベルでは、ワープロソフトの普及、PDFによる電子的文書の交換がひろまり、インターネット上のウェッブサイトの爆発的拡大、そして、1997年には、出版社の動きではないのですが、インターネット上の公共図書館「青空文庫」が始まっています。

湯浅氏の年表には、その後の電子書籍をめぐる動きが網羅されていて、詳細を知りたい方は、直接その書籍をご覧になってください。

特に注目したいのは、2000年代に入ってしばらく後に、日本で電子書籍端末が大手電気メーカから発売されていることです。2004年に、松下電器が電子書籍専用端末ΣBookを発売したのです。しかし、この2000年代中盤の電子書籍に向けた動きも腰砕けになってしまいます。

そして、2009年から2010年にかけて、また新しい電子書籍への動きが日本でもおこります。2009年に、AmazonがKindle端末を、日本を含む100カ国以上で発売し、2010年には、大手出版社が集う「一般社団法人日本電子書籍出版社協会」が設立され、6月には米アップル社がiPadを発売して、その後のタブレット端末の爆発的な普及の出発点となります。それ以降は、複雑で濃厚な出版社の動きが展開していくことになります。

先の日本電子書籍出版社協会の代表理事で、講談社社長の野間省伸の設立時の発現の中に、電子書籍に立ち向かう出版社の必死な様相があらわれている。氏は、「今後、新たに拡大する電子書籍市場が日本の出版界にもたらす大きな影響は、決して無視できるものではありません。かといって、いたずらに悲観すべき材料でもありません。」として、次の三つの理念を提唱する。すなわち「ひとつは、「著作者の利益・権利を確保すること」、そしてもうひとつは「読者の利便性に資すること」。そして3番目に「紙とデジタルとの連動・共存」です」と。

もちろん、ここには書かれていない、自然で最も重要な考え方は、電子書籍時代にも出版社の利益をどのように確保するか、その道を探るということです。

私たちが何よりも理解していなければならないことは、いま、私たちの周りで生じている電子書籍をめぐる目覚ましい動きも、こうした出版社の動きが作り出しているものなのです。

出版社というのは営利を追求します。もちろん、それにつながる書店(Amazonあるいは電子書店を含む)も利益を追求しています。私たちは、本、あるいは電子書籍というのが私企業による利益追求と不可分のものであるという点について、疑いを挟むことは少なくなっています。そして、電子書籍のうねりが、出版社の激しい動きと一体化していても不思議なことと思わなくなっています。

少し立ち止まって、なぜそうなのかを考えておく価値はあります。

 

[1]湯浅俊彦著、『電子出版学入門』、p.9。元データは『出版年感 2012年版』。